2016年03月13日

あの日(2)


〈あいつが渦に飲み込まれて顔が見えなくなるのを何度も夢に見て 自分の叫び声で目が覚めちまうんだ‼︎。〉
グッと両手の拳を握りしめ、
〈何であん時あいつは あいつは俺の手を握らなかったんだ⁉︎。握ってたら波に飲
まれる事なかったのに。俺の手を握りたくない程俺の事が嫌いだったのかよ‼︎。〉
グッと啓造は奥歯を噛み締めながら俯きながら振り絞るように吐き出した。
そんな様子の啓造の胡座をかいた膝に1匹の三毛猫が前足をちょこんと乗せてじっと啓造を見上げながらニャーニャーと訴える様に泣き始めた。
「どうしたんだ、一体。そんなに鳴いてうるさいぞ‼︎。」
しきりに鳴く三毛猫に啓造は苛立ち語尾が荒くなり、立ち上がり三毛猫に握った 拳をふりおろそうとした時 フッと部屋の照明が微妙に明るくなり室内の雰囲気が柔らかくなり、優しげな声が室内に響いた。
《啓ちゃん》
「幸子⁉︎。」
その声に啓造は驚いて叫び室内に室内をキョロキョロと見回すも自分とボランティア女性以外居ない。
薄気味悪いと啓造がいぶかしく思い座ると再度声が響いた。
《啓ちゃん、ごめんね》
「何処だ 幸子⁉︎。隠れてないで出て来い!。死んだなんて嘘で生きてるんだろう⁉︎。姿見せてくれよ‼︎。」
《私はここよ》
「何処だ‼︎。」
《ニャー》
声のしたのが下からだと気付き啓造が目線を下ろした先には三毛猫しかいない。
幸子の声と三毛猫の鳴き声がダブって聞こえ、啓造は我が目を疑い 胡座をかいている啓造の膝に座っている三毛猫をマジマジと見た。
《あたし、乳ガンの末期だったの。半年生きられるかどうかわからないって医師に言われて。バツ1で身寄りも居ないし。啓ちゃんに相談しようかと思ったけど余計心配かけたくなくて。》
《津波の時 啓ちゃん 手を伸ばしてくれて嬉しかった。》
《でもね、あの時一瞬考えたの。もし啓ちゃんの手をとって助かっても半年の間苦痛に苛まれる私を見て、啓ちゃんまで病気になったら余計嫌だって。》
《元気な頃のあたしを覚えていてほしいと思って 啓ちゃんの手を取らなかったの。》
啓造の顔をじっと見つめる三毛猫。その顔に生前の幸子の顔が重なった。
「馬鹿だよ、何言ってんだ。俺とお前の仲じゃないか。何遠慮してるんだ。一緒にガンに立ち向かってやったのによ‼︎。」
啓造は三毛猫を抱きしめながらがたいのいい体を震わせながらむせび泣きながら言った。
むせび泣きがしばらく続いたのか、胸のつかえが取れた啓造はすっきりした顔つきで何か思い出した様に顔を上げ、立ち上がりそばの箪笥の中から何かを取り出して三毛猫の首にかけた。
それは八角形にカットしたクリスタルのペンダントだった。
「俺はよぉ、幸子にプロポーズするって決めた時に何か渡そうと思い、気の利いたアクセサリーが置いてありそうな店に入ったがよう、アクセサリーなんて女衆の好きな物分からないから店員のオススメってゆーこんなのしか用意出来なかった。」
啓造は照れながら三毛猫の首にかけたクリスタルのペンダントは畳床につく程の大きさで三毛猫には重そうだった。
そんな啓造と三毛猫の様子をボランティア女性は優しい眼差しで見つめていた。
  


Posted by ブランフェムト at 22:52Comments(0)小説関連